※記事は、2023年9月11日に開催された分科会を基にまとめたものです。

セカイホテルの始まり。
課題は地域の個性を発掘すること。地方創生の本質を突く「魅力と個性」の違い

 矢野さんが取り組み、そして大阪以外の各地へと拡げようとしている「セカイホテル」のコンセプトは、その土地のありのままの姿やその場所での日常体験を「個性」と捉え、その「個性」を体験してもらうという仕掛けを持ったホテル。「まちごとホテル(商標登録済)」として、観光地でもないような場所で地域の商店とパートナーシップを結び宿泊者に街を楽しんでもらう(過ごしてもらう)仕掛けだ。
そもそも矢野さんの取組の原点には、日本の地方には「魅力はあるけど個性がない」という問題意識がある。特定の地域(エリア)の名前を聞いたときに「あっ、あそこね」と名刺だけで浮かぶような場所は「魅力」を持っているとは言えるが、そこで何ができるか、どんな風景・情景が浮かぶかくらいまで連想できなければ地域の「個性」を発揮しているとまでは言えない、という意識だ。その見方は地域の特徴を日常に根ざしたところで発掘するという点で「地方創生」の本質を突いているとも言える。

地域で仕事をする。
中小事業者のデザイン・建設・不動産の一体化(ワンストップ化)

 中小規模の事業者が地方で不動産を活用するビジネスをするとき、この3つの機能を一体的に持っていることが必要だと矢野さんは考えている。
理由の一つはコストの問題。中小規模事業者が携わる事業規模はそもそも大きくないことが多いわけで、それにもかかわらず設計、施工、不動産取引(リーシングや運営など)を別々に担えば、それはコストアップ要因にしかならない。さらには工事や事業の精度低下にも繋がる。工事の精度は結果的に手直しなどによりコストにも直結する問題だが、「事業の精度」という点でも事業の成功に影響を与えかねない。このデザインや工事はどんな目的で施されているのか、何のためにやっているのかについてデザイン・建設・不動産に関わるプレイヤーが「共通認識」を持っているかはプロジェクトの質を下げないという意味で重要ということだ。
 

地域で仕事をする。
賛成・反対ではなく「賛同」者と始めること。

セカイホテルのような「新しい」、「初めて」、「みたことがない」ことに取り組む際に矢野さんが決めていることがあるそうだ。周囲の賛成・反対の声を聞きすぎることは、結局のところ議席の奪い合いになるだけでコトが進まないし思った通りにもならない。私利私欲ではなく地域にとって必要だと考えたことであれば、そのアイデアに賛成か反対かではなく、やるのかやらないのかという「賛同」が大事だという。ちなみに矢野さんのいう「賛同」者とはお金を出す・一緒に具体的なリスクを取る人を指すそうです。新しい見たこともない取り組みに「共感」は欲しいけれど、まず立ち上がる時には「賛同」が重要だと言います。

動画では以上の話題以外にも、セカイホテルの立ち上げに関わるお話や事業計画における志と算盤の話なども出てきます。ぜひご覧ください。
 

 

 

■SEKAI HOTELとは?
https://www.sekaihotel.jp/ 

図形図形

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矢部智仁 (やべ・ともひと) 

#新しい不動産業研究所 所⻑ 

合同会社 RRP 代表社員 

東洋⼤学⼤学院 公⺠連携専攻 客員教授 

1987年株式会社リクルート⼊社、住宅情報部⾨に配属。2009 年からリクルート住宅総研、 所⻑として業界動向の調査、ロビー活動に従事、⾏政設置委員会の委員等を歴任。 

2014 年に建設・不動産業界を顧客とした経営⽀援コンサルタント企業に移り、地域密着企業の⽀援に携わる。 

2021 年から合同会社 RRP 代表社員東洋⼤学⼤学院客員教授(PPP ビジネス担当)、公益社団法⼈ ⽇本不動産学会監事、国⼟交通省 PPP サポーター。