10月26日、オンラインで開催された「不動産再生から始める民泊投資セミナー 〜空き家 × 民泊で広がる新しい不動産活用〜」。申込者は60名以上にのぼり、幅広い世代・地域から参加があるなど、関心の高さがうかがえるイベントとなりました。今回は、空き家×民泊の盛り上がりの背景や運用のリアル、気になる収支まで、セミナーの様子をダイジェストでお伝えします。
司会:エンジョイワークス 松島孝夫
第一部 空き家と民泊の市場予測。物件選びのポイントは?
はじめに登壇したのはエンジョイワークスの彼末氏。現在、日本の空き家率は年々上昇しており、空き家を宿泊事業、つまり民泊に利活用することで、低投資で宿泊事業に参入できる可能性があると説明しました。
また、2024年の訪日外国人は約3,600万人に達しており、政府は2030年に6,000万人を目標としているなど、インバウンド需要の増加も追い風になっています。さらに、二拠点居住推進法(2020年11月施行)により、都市部から地方への人の流れが促進され、中長期滞在のニーズが高まっていることを指摘。今後も宿泊施設、とくに中長期滞在ができる「民泊需要」は拡大すると予測しています。
一方で、民泊開業には物件選定から法規調査、事業企画、設計、資金調達、工事、開業準備、運営体制構築まで幅広い知見が必要であり、単独ではなくパートナーや協業の必要性をポイントに挙げていました。

続いて登場したのは、静岡県掛川市の「不動産Mick」馬渕氏。自身のキャリアから宿泊事業に興味を持ち、実際に不動産投資も行っているそうです。空き家を賃貸にした場合と民泊にした場合の収益を比較し、民泊のほうが約3倍の利益が見込めると解説しました。
そして物件選びの3つのポイントとして以下を挙げています。
① 宿泊人数を増やせる間取り(清掃費や運営費は人数に関わらず一定のため)
② 初期投資の低さ(リフォーム費用や家具家電、消防設備などで最低でも200万円程度必要)
③ 長期滞在や体験型の可能性(プールやバーベキュー設備、観光名所へのアクセスなど)

また、中長期滞在ユーザー(1カ月以上滞在)を獲得できれば、民泊の180日制限を超えた期間を賃貸借契約で活用できる点も紹介しました。
第二部 今年開業!リアルな民泊運営の現場の声
次に、今年、静岡県で民泊事業をはじめたG.EST.(ジーエスト)の牧田実夕氏、藤田亮太郎氏が登場。お二人は複数の物件をセルフリノベーションし、民泊事業をスタート。まさに「リアルな民泊運営の現場」を体感しています。
一軒目は袋井市・旧東海道沿いの築55年の元お茶屋さん。まちを歩き、貸主へ直接貸してほしいと交渉したそう。ほかにもアパートの一室や島田市金谷の築35年の建物など、さまざまな物件をセルフリノベーションで改修し、民泊施設として再生しています。
民泊成功のポイントとして、「写真を撮りたくなる空間」や「ここにしかないコンセプト」が大切だと語ります。また、旧耐震基準で建てられた建物の場合は耐震補強が重要。また、消防法や保健所への申請が初心者のつまずきやすいポイントだと紹介しました。
予約はBooking.comとAirbnbが中心で、稼働率は平均約40%(平日20%、土日祝はほぼ満室、長期休暇時は60〜70%)。
良い面は宿泊者との交流や価値観の広がり、難しい面は清掃の大変さや宿泊者マナーの問題とのこと。「おもしろいけど、案外大変」——それがお二人の感じる民泊のリアルのようです。
第三部 民泊に欠かせない「システム」とは
次にグッドネイバーズの唐沢氏から、民泊運営に欠かせないシステムについて解説。最小構成ではOTA(オンライン・トラベル・エージェント、例:Airbnb・Booking.com)だけでも始められると紹介しました。

ただし、複数のOTAを利用するようになると「ダブルブッキング」が発生する可能性があるため、サイトコントローラー(例:Beds24)の導入が欠かせないといいます。
さらに広域・複数施設を運営する場合は、予約管理・顧客管理・無人チェックイン・騒音センサーなどを組み合わせた総合的なシステムが必要になると指摘しました。
Beds24は初期費用が不要で月額3,600円(税抜)から利用でき、コスト的にも導入しやすい点が一番のメリット。一方で操作には慣れが必要で、一定の学習コストがかかる点を注意点として紹介していました。
空き家×民泊の取り組みポイントを整理
松島氏は、空き家を民泊にするまでの流れと注意ポイントをまとめました。
① 事業計画立案では法令確認、物件調査(雨漏りなどの設備状況)、権利関係の確認が重要。
② 資金計画では耐震・給排水・消防法対応などの費用を見込む必要がある。
③ 工事では予想外の事態に備えてスケジュールに余裕を持たせることが大切。
④ 開業準備では清掃・チェックイン対応などの運営体制構築が必要。特に運営と所有が他地域で展開する場合は、現地管理チームづくりが重要。また、運営開始後は宿泊者や近隣とのトラブル対応も欠かせません。
疑問質問を一挙に解消!質疑応答編
A.物件選定のポイントについて教えてほしい。
Q.馬渕氏「自分の『やりたいコンセプト』が大切。自身の思いの重要性を強調し、失敗したときに粘り強く続けられる動機がないと難しいのでは」。
Q.彼末氏「選択肢は大きく2つ。宿泊ニーズがあるエリアを選ぶ、または魅力を自ら生み出して発信しニーズを生み出していく。どちらにしても地域の特性をよく知ることが大切なので、エリア分析には実態調査やOTAの情報活用、観光協会と幅広く情報収集していくのがおすすめ」。
Q.1件目の物件選びについて教えてほしい。
A.馬渕氏「いわゆる『スモールスタート』がいいと思う。駅近の好立地より価格が安い物件でコンセプトをしっかり持ってはじめるのがいい」。
Q民泊に関する法的注意点が知りたい。
A.松島氏「用途地域や自治体の上乗せ規制の確認が重要。特に人気エリアでは180日以下の制限や週末のみの営業制限がある場合があります。また、建築基準法上の用途変更が必要かどうかの確認も重要です」
Q.民泊(住宅宿泊事業法)と旅館業の違いは?
A.松島氏「旅館業許可を取得すれば営業日数制限はなくなりますが、ホテル・旅館の建設が許可されるエリアかどうか用途地域の確認が必要」
Q.旧耐震の空き家の耐震改修はどうする?
A.藤田氏「法的には必須ではないものの、安全面から推奨しています」。
松島氏「木造住宅は非常によくできているので比較的改修がしやすく、しっかりと安全性を高めることができる」。
Q.民泊の収支について知りたい。
A.藤田氏「イニシャルコストですが、自分たちがはじめたのは大学生のとき。この大学生の費用感・知識でもはじめられるのが民泊のいいところだと思っています」
A.唐沢氏「ざっくりオーナーさんの取り分は、売上の約40%だと思ってもらえればいいと思います」
A.松島氏「資金調達方法としては、民泊ローンの活用や政策金融公庫からの事業融資に加えて、自治体の空き家対策や古民家リノベーションに対する補助金が活用できることも。クラウドファンディングはPR効果やコミュニティ醸成のメリットはあるが、大きな資金を集めるのは難しく、リターン準備に手間がかかるというデメリットに注意が必要です」。
Q.地域や自治体との連携について教えてほしい
A.彼末氏「全国的に空き家対策が課題となっており、特に地方自治体は空き家活用に前向きなことが多い。個人ではじめる一軒の空き家活用でも、自治体に相談すれば協力が得られる可能性は十分あると思う」。
Q.運営オペレーション・人材確保の課題は?
A藤田氏「個人で運営する場合、チェックインやチェックアウトの時間を自分の都合に合わせて設定できる。おすすめです」
A唐沢氏「個人で一軒運営する場合は可能な限り自分でやることでコスト削減になる。運営委託の費用感については、業界平均で売上の15〜25%程度が目安。また、運営委託業者の選び方については、オーナーの目的(収益重視か地域活性化重視など)に合った業者を選ぶことが重要だと思う」
Q.民泊市場の今後需要と将来予測は?
馬渕氏「需要はまだまだ増えると思う。冒頭の旅行者の増加や二拠点生活の普及していくはず」
彼末氏「全国的には増加傾向だが、エリアによって飽和状態のところも。地域の調査が必要」
藤田氏「実際に運営している立場から、宿泊施設の需要はまだ足りていないと感じている。ホテルやビジネスホテルの次の選択肢として民泊が選ばれるのでは」。
唐沢氏「すでに都心部より地方の方が今後民泊の需要が増えると思う」。
<<まとめ>>
最後に今すぐ民泊が始められる物件を紹介。

11月1日に静岡県掛川市の一戸建て(ガレージ付き・3,380万円)、11月10日に山口県周防大島の古民家(大正築・2,640万円)で見学会を実施予定。民泊事業に興味のある方は一度見学をという呼びかけがありました。
また今後定期的に民泊情報を発信していく「空き家×民泊分科会」LINEグループへの参加を案内し、イベントは終了しました。
新しい不動産業研究所では今後も、「民泊」「二地域居住」「面的再生」に関するイベントや取り組みを紹介していきます。みなさまとの協業や、興味・関心のあるテーマ、見学したい「民泊物件」など、ぜひリクエストをお寄せください
<動画・フルバージョンはコチラから>
空き家✕民泊分科会by#新しい不動産業研究所 公式LINE・ご登録をお願いいたします。

