日本各地で人口減少が進むなか、若手人材の流出、地域の空洞化、コミュニティ衰退など、課題が山積しています。そんななか、大阪・藤井寺市と羽曳野市を中心に大学教育とまちづくりをつなぐ取り組みをされているのが、阪西洋一さんです。学生とともにまちに出て、「地域のキーパーソン」を実際に合わせることで、「人と地域資源の懸け橋」を目指していらっしゃるそう。阪西さんの現在の活動、注目する地域、そして#新しい不動産業研究所に期待することを伺いました。

写真提供:阪西洋一さん


◆学びは地域にある!まちづくりに取り組む人と学生をつなぐ
大阪の不動産業界団体にて、Osaka Metroとの連携や、ボランタリーチェーン「TAKTAS.」の構築に携わってきた阪西洋一さん。不動産業で培った知見と人脈を活かし、次なるフィールドとして選んだのが「教育」です。現在は四天王寺大学にてエリアリノベーションを専門とし、学生たちを地域の現場へと送り出す、実践型の教育に取り組まれています。主な活動拠点は大阪府羽曳野市および藤井寺市周辺です。

阪西洋一さん


「2024年より教壇に立ち、現在2年目になります。私のゼミでは、“まちづくりを実践する人”や“地域のキーパーソン”と学生を『引き合わせる』ことを心がけています。エリアリノベーションといっても、学生にとって今ひとつ実感が湧きにくい。だからこそ、商店街でリアルにまちづくりに取り組む事業者の話を聞き、現場に触れる。空き家再生や写真館の運営など、地域の多様な人々との関わりを通じて、不動産業の本質的な役割に気づいていくよう、サポートしています」。

写真提供:阪西洋一さん

 

写真提供:阪西洋一さん


学生の多くが、「不動産業」に対して“怖い”“うさんくさい”といったネガティブな先入観を持っている現実もあります。けれども、ゼミ活動の中でカフェやネイルサロンの開業に地域の不動産事業者が関わっていることを知り、その見方が大きく変わっていくといいます。
「不動産業って、“ありがとう”と言ってもらえる仕事なんです。感じの良い店舗の背景には、良い不動産会社の存在がある。そのことに学生が気づいたとき、すごく嬉しいですね。そうした発見の積み重ねが、将来的に地域を担う人材の育成にもつながると思っています」。

写真提供:阪西洋一さん



◆大阪ならではの「おもろい」不動産業者たち
「実際、地域で活躍している不動産業者のなかには、DJだったり、だんじりの大工方だったり、竹林整備に取り組んでいたりと、ユニークな経歴や技能を持つ方がたくさんいらっしゃいます。まちのなかで信頼を得ている彼らの魅力は、意外と外に伝わっていない。いまだに『物件を右から左に流すだけ』という旧来的なイメージが根強いんです。これは、非常にもったいないことだと感じています」。

写真提供:阪西洋一さん


業界団体での経験から、不動産業界の“中の人”だからこそ感じる、地域に根ざし真剣にまちづくりに取り組む事業者たちの面白さと、社会一般に浸透する旧来のイメージとの“ギャップ”。阪西さんは、教育者という立場から、それを若い世代に伝えることが自らの使命だと語ります。
「以前、エンジョイワークスの福田和則さんとお話ししたとき、『金融を学ぶ機会ってほとんどない』とおっしゃっていましたが、不動産もまったく同じです。人生でもっとも大きな買い物である住宅取得、もしくは相続、起業時の物件選びなど、重大な判断が求められるにもかかわらず、専門的に学ぶ機会は極めて限られている。だからこそ、教育の現場でまちづくりや不動産の役割を伝えていきたいと考えています」。
 

写真提供:阪西洋一さん


◆「地元」に限らず、好きな地域で活躍する人材を育てたい
教壇に立つようになり、周囲からは「教え子が将来、この大学の近隣地域で活躍してくれたら」と声をかけられることもあるそうですが、阪西さんの考えは少し異なります。
「出身地や大学のあるまちに限らず、学生自身が“好きだ”と思える地域で活躍してくれたら、それが一番です。大学で学んだことを持ち帰って地元に貢献してくれてもいいし、他地域でも構わない。もしかしたら海外かもしれない。まちづくりや地域資源の発見は、場所を限定しない普遍的な学びだと思っています。『大学のとき、面白い大人たちと出会ったな』という記憶が、どこかに残ってくれたら、それで十分なんです」。
 

写真提供:阪西洋一さん


◆注目エリアは和歌山。人口減少が進むからこそ、新しい動きが生まれる
阪西さんが注目している地域のひとつが、和歌山県です。関西圏でも特に人口減少のスピードが速く、危機感を持って地域再生に取り組む人々の存在が際立っているといいます。
「自治体や南海電鉄など、地域の担い手が本気でまちづくりや地域の価値向上に取り組んでいます。リノベーションスクールなども開催されており、“変わらなければならない”という意識が現場に明確にある。その動きに注目しています」。
大阪でいうと、丸順不動産の小山さん、サルトコラボレイティブの加藤さんをはじめ、たくさんの新しい不動産業研究所会員企業がいらっしゃいます。阪西さんから見ると「小山さんらは、大きなローカルデベロップメンをしているのではなく、実に自然体な気がします。自分たちのやることは何なのかを見据えていて、コンセプトがはっきりしていて、本当にかっこいい。腹の座り方が違います」とのこと。

写真提供:阪西洋一さん

また、大阪府岸和田市を拠点に、放置竹林を活用したプロジェクトにも注目しているそう。タケノコからのメンマ製造・販売、古民家の宿泊施設への再生などを通じて、地域資源を循環させる取り組みが展開されています。
不動産業をしていて、DJで、竹林整備もやっている――そんな人がいるなんて最高ですよね(笑)。もちろん“地域資源を活かし、持続可能なまちをつくる”という真面目な理由もある。でも何より“楽しそう”なのが良いと思うんです。こうしたユニークな動きを通じて、“新しい不動産業”の可能性が見えてくる気がしています」。
 

写真提供:阪西洋一さん

 


◆大手デベでも旧来型でもない、「新しい不動産業」の発信を
最後に、「#新しい不動産業研究所」への期待を伺いました。
「全国には約10万社の不動産業者がいます。今後も、仲介や売買を中心としたビジネスモデル自体は大きく変わらないかもしれません。ただ、まちの価値を高め、不動産の資産価値も同時に上げていこうと努力している事業者は、ますます増えてくると思います。全体から見れば少数派かもしれませんが、全国の地域で点在している。そうした事業者をつなぐハブ・紹介者として、『#新しい不動産業研究所』の存在意義は大きいはずです」。
「地域密着型の不動産事業者は、“転勤”という選択肢を持たず、その地域に根ざして働いています。ある種の孤独や重圧のなかで、地域の未来を支えようとしている。その精神を私は本当に尊敬しています。だからこそ、若い世代に“不動産業って面白い”と思ってもらいたい。大手デベロッパーでも、従来の不動産業でもない、“新しい不動産業”の在り方を一緒に発信していきたいと考えています」。
 

写真提供:阪西洋一さん


◆地域と学生をつなぎ、新しい価値を育む
阪西さんの取り組みは、まだ始まったばかりです。地域の不動産業の魅力を若い世代に届けるために。私たち、不動産事業者のアップデート・情報発信もますます重要となるに違いありません。