フロッグハウスは設計・施工・監理まで一気通貫で行い、リノベーション、なかでも団地再生に定評のある工務店です。従来の工務店の守備範囲の枠組みを超えるという意味を込めて「ニュー工務店」と名乗っていらっしゃいます。2024年にはエンジョイワークスとの協業でファンドを活用した買取再販事業を実施し、2025年3月、無事売却が成立しました。協業で得た収穫と課題、今後の展開について、代表の清水大介氏に伺いました。
■断熱など住宅性能向上。相場より2〜3割高くとも売却成立
フロッグハウスとエンジョイワークスの買取再販事業の舞台となったのは、兵庫県神戸市と明石市にまたがる明舞団地。総戸数約1万1000戸、全国の団地と同様、建物と住民の両面で高齢化が進んでいます。

清水氏によると、明舞団地では買取再販事業を手がける事業者も存在しますが、多くは「安さ」を売りにしており、リノベ済みであっても1000万円以下で取引されていて、住まいとしての品質(特に断熱性能)は軽視されがちだといいます。そうした市場環境の中、今回の事業では1280万円という価格を設定。デザインや性能面で新築並みの住宅を完成させました。
「先行の価格重視の買取再販物件を見てきましたが、あまりうまくいっているとは言えない状況でした。そのため安さではなく、住まいとしての品質を確保した再販事業をしたい、と思っていました。ただ、周囲の反応はというと冷ややかいうか、『応援はするけど本当にその価格で大丈夫?』がほとんど。通常の賃貸リノベや分譲リノベであれば、購入者がいて相互納得のうえでプロジェクトが進んでいきますが、買取再販ではそうはいかない。ここは難しいなと思いました。
実際に購入されたのは近隣に住む男性で、『この品質と内装、価格ならバランスが良い』と納得されて決断されたそうです。価格とその根拠をしっかり提示すれば、しっかり売れることが証明できたと思います」

今回の団地リノベでは内窓設置するなどし、省エネルギー等級4相当、「R1住宅」に適合しています。なかなか目に見えにくい部分ですが、性能を重視しての家選びはじわりと広がっているようです。
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■金融機関の理解、情報発信に課題感が残る
収穫や手応えがあった一方で、課題も鮮明となりました。
「ひとつは住宅ローンです。旧耐震基準の団地とあって、利用できる住宅ローン金融機関が限定されてしまい、ここに関する施策は少し足りていなかったと感じています。今回は現金一括で決済となりましたが、今後の課題だと思いました。
もう一つは、告知のスピード感、投資家への発信ですね。今回はリノベーション施工後のPRや販売活動がメインでしたので、施工前の段階からPR・販売活動をしても良かったなと感じています。団地住民が出資というかたちで参加してもよかったですし、ファンド出資者の方が物件を購入する可能性もあったかと。告知・販売活動はもう少し工夫の余地があると思います」

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こうした課題はありつつも、成功事例をひとつ積み上げることができました。先行事例があることで、地元のニーズの掘り起こし、行政との連携、金融機関の周知や理解も進むことでしょう。何より愛ある団地の買取再販事業が新しい風となっていくに違いありません。
■芦屋市の公営団地の再生も。行政との協業・連携も進む
現在、フロッグハウスで手掛けているプロジェクト、注目してほしいプロジェクトはあるのでしょうか。
「芦屋市の公営住宅3戸の再生を手掛けることになりました。4階建ての4階の2住戸、3階の1住戸です。予算に余裕があるわけではありませんが、阪神・淡路大震災後の建物なので断熱性能はある程度期待できます。ここで内窓を設置、水まわり刷新、換気をすれば、今のライフスタイルにあった住まいになると思います。
性能のよい公営住宅、賃貸住宅は移住者を呼び込むきっかけになる。現在、公営住宅は縮小傾向にありますが、住まいを気に入ってもらえれば、若い世帯に住んでもらえますし、気に入ってもらえれば定住につなげることができます。関西は人口減少のスピードが早いこともあり、行政も危機意識がありますし、フットワーク軽く動いているなと感じます」
清水氏は、行政が主催する「団地空き家予防講座」の講師として招かれることもあり、連携を深めながら、団地再生にあたっています。
「意図したわけではありませんが、地域密着かつ少人数で設計施工を手がけていることで、自治体から声がかけやすいのかもしれません」

■新築価格高騰と中古団地価格のギャップ。ここに勝機がある
足元となる明舞団地でも、エンジョイワークスとの買取再販事業2号目が動きはじめています。
「駅までのアクセスのよい物件の販売があり、現地見学にいきました。今後はペット飼育可能など規約変更も含めた、団地の全体の資産価値向上を管理組合と一緒に検討していけたらいいですね。また、最近では物件を手放したいというご相談もありました。残置物もあったり、各種法的手続きも必要ですが、ポテンシャルは十分。住まいとして再生可能だと思っています」
清水氏が明舞団地で買取再販事業に取り組み続ける背景には、自身が育ったという「思い入れ」だけでなくビジネスとしての可能性を感じているからです。

「明舞団地は、建物も適切に管理されており状況もいい。駅も近く、バス便も使え、海岸も近い。一方で新築住宅の供給状況はいうと、マンション・一戸建てともに新築価格が高騰し、買いたい人が家を買えないという状況に陥っている。このギャップがあることが、大きなビジネスチャンスだと思っています。きちんと断熱含めた住宅性能を担保する、一人〜二人暮らしなど、今のライフスタイルにあった間取りなど、適切に手を加えればマーケットとして成立します。
今回、課題となった住宅ローンなどを改善し、スピード感持って供給できれば、新たな景色が見えてくると思います」
■次の目標は一棟丸ごとや複数棟リノベ。住民台帳を書き換える取り組みを
「今回の協業はとても良い試みだったと思います。複数の人・事業者を巻き込み、注目を集めることができました。今後は1戸や2戸にとどまらず、量産体制の構築に挑んでいきたい。今、明舞団地の人口動態を把握しているんですが、野望としては、この人口動態が変わるくらいのインパクトを残す取り組みをしたい。たとえば100世帯の管理組合の団地であれば、10戸〜20戸の住戸にシングルや2人世帯が引っ越してきたら、団地の雰囲気が一変するはずなんです」
実績を積み上げていくことで、今後は団地1棟丸ごと、複数棟といった大がかりなプロジェクトも浮上してくることでしょう。「団地」を「負動産」と切り捨てるにはまだ早い。ファンド・協業という自信・経験をもとに、フロッグハウスの団地再生はますます加速していくに違いありません。