#新しい不動産業研究所とは


新しい不動産業研究所とは、不動産事業の取り組む企業や個人が、従来の取り組み領域だけにとらわれず(業の領域拡大と呼びます)、不動産オーナーや使い手さらには地域市民からの共感を得て時に協働しながら事業を進める(業の民主化と呼びます)ことができる事業者へと自身をアップデートするために仲間が集い知見やノウハウを高めあう場です。


リノベーター・松本氏に聞く。住宅不動産業とソーシャルビジネスの相性


 例えば住宅確保困難者に対して偏見とかで貸さないのはよくないこと、住居を貸さないのは可哀想なこと、そんなな論調でメディアは伝えようとすることが多い気がします。一般的にソーシャルビジネスは社会問題の解決を目的とした収益事業を行うことですが、収益事業を行うのであれば、差別とか偏見の有無はともかく合理性の観点で「リスクが高い借り手」を相手にしたビジネスであることは確実です。普通に事業するならそのような顧客は対象外にした方が正しく合理的です。

 社会が二極化してきて、この先、最低限の生活保障水までにしか届かずそれで何とか慎ましく暮らしてかないといけないっていう人が減ることはない気がしています。先ほども言ったように、経済合理性で見たらあえてやらなくてもいい事業かもしれないけど、結果的に社会課題を解決するっていうことにもなり薄利ながら利益が出るのであればビジネスにもなる。繰り返しますが、差別や偏見で住居を確保できない人でも、社会が変わっていったら受け入れられる人は増えてくるはず。それでもリスクがある人たちであることは確実です。要は「それをわかった上でやる」からビジネスになるわけです。
 ちなみになぜ薄利になるかというと手間がかかるからです。その意味で、多分既存の不動産事業とは相性が悪いとお思います。極論をすると小さな手間でそれなりに稼ぎたい人にとっては苦しくて手間がかかりさらに薄利な仕事は、不動産業の中の一つの仕事とはいえあまり選ばれないと思います。おかげで住宅確保困難者を顧客の中心に据えた事業をしている競合が少ないから自社も事業として成り立っているという面もあります。


「ビジネス」だからこそ、社会性だけではすまない現実


 リスクの高い顧客を相手にした仕事ですが、ハイリスクを飲み込むための工夫みたいなことはどっかではあると思います。僕は保険会社にいましたが、保険というのは損保でも生保でもリスクを転嫁するビジネスです。今の事業でどうリスクと向き合うかといえば住宅を貸して終わりではなく、何かあった際にとことん対応できるのか、家賃回収できるのか、そういうところを決めることだと思うのです。会社を立ち上げた頃、遠くからすごく優秀な人が働きたいと言ってうちにやってきました。社会的な事業でビジネス経験や能力を生かしたいというような人が結構来ましたけど、みんな心が折れちゃいました。これだけ貢献しているのになんでこんな言われ方や扱いをされるの、ありがとうって言ってもらえないの、といったことで心が折れる。
 もちろん社会的事業ではありますけどある程度ドライに受け止めるぐらいにならないと続かないなと思っています。同時に僕らは「対等に」お客さんと向き合わないといけないと思っています。住宅確保困難者だから可哀想とか何かをしてあげるという関係ではなく対等であることが大事です。だから(滞納とか)次に同じことをしたら本当に住む家がなくなるし裁判もする、強制執行にもなるよときっぱりと言いますし家賃も回収しに行きます。入居者さんからの要望でも家賃を払ってくれない人が何か言ってきても何も受けません。家賃を払ってなくても居住する権利はあるかもしれないけど家賃払わないってことはもうこっちとして信頼関係がもう崩壊していると思っています。


社会住宅ビジネスから社会住宅ファンド。その先の世界とは


 多分ですけど地域で居住支援、社会住宅を求める人を顧客にするような分野を扱う不動産業者が新たに参入するってことはあんまりないのではと思っています。ただし、居住支援法人の貸出可能な住宅をどれだけ確保できるかという問題を解消する手伝いはできるのではないかとも思います。その際、居住支援法人には「(何かあった際の)その後ちゃんと対応するか」の能力や覚悟、体制が求められるということ次第ではありますけど。つまり、居住支援は物件集めをどうするかという話と集めた物件の運用にあたって本当に危険なことも含めてどこまでPM業務をやれるかという組み合わせだと思います。 
 オーナー確保と、それからそのこの特殊な貸し手を対象にするっていうことでいくとそもそも物件をそもそもマスターリースにも出したくないっていう人をどう説得するかという話と、預かった以上どこまでやれるかっていう、この二つがちゃんとできないとこの社会住宅ビジネスを主たる事業に置くことはなかなかできないです。

 その意味で今回の社会住宅ファンドは単に資金調達手法の拡張というより、住宅確保困難者への住宅提供の物理的な範囲を広げるきっかけとして期待したいところです。単純に利回りを求めるファンドではなく、共感投資の「共感」がクローズアップされたファンドかもしれない


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矢部智仁 (やべ・ともひと)

#新しい不動産業研究所 所⻑
合同会社 RRP 代表社員
東洋⼤学⼤学院 公⺠連携専攻 客員教授
1987年株式会社リクルート⼊社、住宅情報部⾨に配属。2009 年からリクルート住宅総研、 所⻑として業界動向の調査、ロビー活動に従事、⾏政設置委員会の委員等を歴任。
2014 年に建設・不動産業界を顧客とした経営⽀援コンサルタント企業に移り、地域密着企業の⽀援に携わる。
2021 年から合同会社 RRP 代表社員。 東洋⼤学⼤学院客員教授(PPP ビジネス担当)、公益社団法⼈ ⽇本不動産学会監事、国⼟交通省 PPP サポーター。