新しい不動産業研究所とは


新しい不動産業とは何か。この研究所ではソーシャルキャピタルつまり人と人との関係性やその関係性がもたらす価値を、地域の不動産価値の最大化に反映してゆくことができる事業者であり産業であるというビジョンを掲げています。
そうした考え方に共感し実践する事業者が繋がる場として立ち上げたのがこの研究所です。不動産事業に取り組む企業や個人が従来の取り組み領域だけにとらわれず(業の領域拡大と呼びます)、オーナーや使い手さらには地域市民からの共感を得て協働しながら事業を進める(業の民主化と呼びます)ことができる事業者へと自身をアップデートするために仲間が集い知見やノウハウを高めあう場です。


今回のテーマ。新しい不動産研究所的、借上転貸事業を捉える視点


2024年3月26日開催の新しい不動産業研究所・分科会では施工請負を本業としていた企業が借上転貸ビジネスを「事業」として着手、成長・拡大させていった株式会社ルーヴィス代表取締役の福井さんをお招きしました。

前回の買取再販事業は、意味としては使わない誰かから使いたい誰かに「所有権を移す」ことで世の中に新しい暮らしや事業チャンスを広げる取組みです。実は「使わない誰かから使いたい誰かに」という部分にフォーカスすると、不動産を動かすという点で使わない誰かから使いたい誰かに「利用する権利を移す」ことも同じ意味を持つ事業だと思います。その意味で前回の分科会とは連続する企画という側面もあるわけです。当日は福井さんが新規事業にチャレンジして行く際のマインドセットや具体的に取り組んだご経験を伺うことで、私たちが次に新事業に挑戦する際に必要な学びや気づきを得ることを目的として開催しました。

今回は借上転貸事業にいち早く取組み成功された企業の一つとして、ルーヴィスの福井さんに立ち上げからのいろんなご苦労とか、工夫をされたことなどいろいろお話を伺いました(今回の記事は福井さんのお話を一部抜粋したものです)。

 

【福井氏が登壇した分科会アーカイブの会員限定ページはこちら

以下のリンクにある記事では、当日のお話をより詳細にお聞きいただけます。
続きは、会員登録をしていただき限定動画でご覧ください。

 

 


福井さんは「なぜ」今の事業を始めたのか。


元々は工務店として2005年に会社を作りました。古い建物を買ったからリノベーションしたいというお客さんの改修工事の設計施工、建築家から設計した案件の施工の請負をやってきました。
借上事業を始めたのは2014年からです。ルーヴィスを立ち上げる前は実家の不動産会社で築30年とか40年ぐらい経ったアパートの空室をどういうふうに埋めていくかという仕事に従事していました。自分がルーヴィスを立ち上げた思った理由は、前職で経験した「空室で困っているオーナーさん」をどうにかして助けられないかなっていう思いからでした。会社を作って10年間くらいは工務店事業をやってきたわけですけど、平成25年の住宅土地統計調査が発表されて全国に空き家が800何十万戸とかあって多すぎて大変だと騒がしくなったときに「何か今まで工務店としてやってきたノウハウを生かして、この空き家という問題に何かアプローチできないかな」と考え始めたのがきっかけでした。


福井さんの現在の事業と取り組み(1)事業のきっかけ

 

じゃぁ具体的にどうやろうかなって考えたときに前職で出会った空室で困っているオーナーさんたちを思い浮かべました。その当時の自分なりに、オーナーさんはもう結構な時間、年数を空室のままにされていた方に、数百万円かければ借り手が見つかりますよとか(場合によっては)売り出すこともできますよという話しをしても、費用を出してくれる人多分いないという仮説がありました。それに加えて今後はさらに空き家が加速度的に増えていくはずだから「早くやる」ことが大事だと思いました。
なので、自分たちで費用負担して借り上げてリノベーションをして転貸した方が早く進むというか使い方も考えやすいかなと思ってこの仕組みを考えました。ということで、借上転貸ではオーナーさんには費用をお支払いいただく必要はなく、貸しに出せる状態にする費用をこちらが負担してリノベーションして賃貸物件にしていくという流れにしました。

借り上げる時には一応「築30年以上」で「1年以上空いている空き家」を対象にしています。それには自分なりに理由はあります。築年数の件は残債の有無やそれに関わる権利関係(例えばオーナーが破産した時に抵当権がついていて借り上げ自体ができなくなるリスクの有無とか)の観点から、空き家期間については「活用したいと思って動いているオーナーなら1年もあれば何らかの解決策に出会えているはず」と考えているからです。

今の借上転貸事業では大体借り上げ期間を7年から8年にしています。元々は6年から8年でやっていたのですけど、建設コストが上がりすぎてちょっと6年だと回収の想定が難しくなってきています。


福井さんの現在の事業と取り組み(2)賃貸分野ならでは、の価値
 


世の中の動きを察知する感度が必要な産業の一つが不動産業だと思います。時代に求められる貸し方や貸し出す相手は?ということを考える時、建築は言われたものを造る仕事だから何か自分でそういうのが見えにくいかもしれない。でも不動産業ってそういうチャンスが大きい仕事だと思いました。中でも賃貸分野は、一回一回ごとの取引の売買と違ってお客様が2年で入れ替わり割と「トレンド」が見えやすいっていうのはあると思っています。例えばリモートワークが流行ったら、何年か前はリビング広めで部屋数少なめがいいっていうトレンドだったけど、コロナになってリモートワークの必要が出てくると昔の(セパレートな)間取りに戻るとか、ユーチューバーの人が自宅で撮影するのではなくYouTubeスタジオみたいに使用するのに借りてくれるのも結構あるとか。そういったトレンドや世の中の動きは賃貸の方が見やすい、リサーチしやすいなとは思います。


成長・拡大につながったメディアとプロモーション。



これまでで100件以上、今稼働しているものだけでも70件以降の不動産を動かしているわけですが、それを実現する上で工務店という建築分野にいながらもお客様から見える「不動産も扱えるのですね」、「不動産のこともわかってらっしゃるのですね」みたいな評判や信頼の積み重ねるための発信も必要だと思います。そこについては自分の場合はメディアのライターさんたちに恵まれたと思っています。
事業を始めた頃は自分でもこの事業の価値とかいいところについて荒々で自分の考えとか全然まとまっていませんでした。そんな中でたまたま取材に来てくれる専門誌があって、取材を受けながら自分の話を「それってこういうことですよね」とスカッとまとめくれて最終的に雑誌で文章になっているものにはすごく社会性もちゃんとあって、出来上がった文章から徐々に自分の言葉になっていったという繰り返しだった気がします。
それ以上にインパクトがあったのは、借上転貸型の商品・サービスはあの当時は多分そんなに認知されてない不動産に関わる商品・サービスだったと思います。専門誌で徐々に注目されるようになってきた頃にワールドビジネスサテライトにも取り上げてもらったことで得たパワーが多分一番良かったです。「工事費一切持たなくてよくて、割と原状回復レベルとかではなくてもっと踏み込んだ内容の工事する商品」っていうところだけ見ると下手すると割と怪しまれる聞こえ方にもなってしまいかねないわけで、それが雑誌ではなくてテレビ媒体で取り上げてもらったことによって力を持てたっていうのはあるんだと思います。